少額訴訟と差し押さえで費用をかけずに被害回復
弁護士に頼らず少額訴訟と差し押さえ
私は「詐欺」によって30万円を失いました。そして失意の底からはい上がり、少額訴訟と差し押さえ、強制執行によって、全額を取り戻すことができました。
少額訴訟、差し押さえ、強制執行はすべて自力で行い、弁護士や司法書士に頼ることはありませんでした。正直にいうと、費用の問題から弁護士や司法書士には頼れませんでした。弁護士や司法書士に依頼していれば、費用が回収額を上回って、赤字になっていたに違いありません(資金的な余裕のある方は専門家に相談することをおすすめします)。
少額訴訟と差し押さえにかかった費用の総額は、収入印紙、予納郵券(切手)、付郵便送達・公示送達の住居調査費、簡易裁判所までの交通費で8万円ほどでした。
この過程で業者に依頼したのは、探偵事務所に依頼した付郵便送達・公示送達の住居調査(計4万円)だけでした。この住居調査は自力でもできないことはありません。ただ、素人には難しそうな調査が含まれていたことと、相手の住所が遠方だったこともあり、ネットで見つけた探偵事務所にお願いしました。
なお住居調査には住民票の取得も必要になりますが、費用は定額小為替と郵送用の切手代(数百円)で、こちらは原告自身で取得します。住民票の取得は、弁護士や司法書士に訴訟を「受任」している場合などを除いて、第三者に依頼することはできません。
私が陥った「詐欺」被害
そもそも私が「詐欺」に遭ってさえいなければ、少額訴訟も差し押さえも必要ありませんでした。身から出た錆でした。
私はかつて、あるオンラインサロンに参加していました。そのオンラインサロンの主宰者は、会員にメールやSNSで「出資」を呼び掛けました。その趣旨を要約すると、次のような内容でした。
「5年間にわたって毎年元金の5%の利息を振り込み、最終年に元金を返済する」
主宰者を信じていた当時の私は、余裕資金から30万円を出資しました。まったく疑わなかったわけではありませんが、主宰者が会員をだますはずはないと思い込み、つい軽い気持ちで出資したのです。思えばこれが長い戦いの始まりでした。
主宰者は「株やFXで〇〇万円稼いだ」と、毎日のように「成果」をSNSに投稿していました。私は、主宰者が集めたお金を「運用」して、その利益を利息として分配するものと思い込んでいました。
結局「5年間」と約束されていた「利息」は、2年間しか振り込まれませんでした。そして「元金の返済が不可能になった」と突然告げられたのです。
少額訴訟の提訴
私はだまされたショックと自分に対する情けなさから、しばらくなにも行動に移せないでいました。
私がようやく回収に向けて動き出したのは、「被害」にあってから2年後でした。主宰者に対する少額訴訟を起こしたのです。私には少額訴訟はおろか、裁判の経験はまったくありませんでした。この時点では、お金を取り戻せるという見込みはありませんでした。
少額訴訟は60万円以内の請求に限って、1回の期日で判決が出る裁判制度です。少額訴訟の99%が弁護士のない「本人訴訟」です。
私は主宰者の住所地を管轄する簡易裁判所に少額訴訟を提訴しました。少額訴訟は原則的に、被告の住所地を管轄する簡易裁判所で開かれます。ただし、金銭請求や双方の同意がある場合は、原告の住所地を管轄する簡易裁判所でも起こすことができます(少額訴訟の詳細は裁判所公式サイトを参照)。
必要最低限の費用は収入印紙代と切手代
少額訴訟は「金銭の支払いを求める請求」に適しており、個人間の金銭貸借、未払い報酬、敷金返還などが大半を占めています。ただし少額訴訟は、年10回までしか起こせません。
少額訴訟を起こすのに最低限必要な費用は収入印紙代(30万円なら3000円)と予納郵券代(裁判書類の送付に使われる。6000円前後)です。
これらの費用は、被告に請求することができます(実際には手間がかかるため、請求する人は多くはありません)。さらに簡易裁判所までの交通費や、先述した付郵便送達の住居調査費が加わります。交通費や住居調査費は自己負担で、被告には請求できません。
少額訴訟で勝訴するポイントは
私にとって幸いだったのは、主宰者の住所や連絡先がわかっていたことです。もし相手の住所がわからなければ、少額訴訟は起こせません。
相手の住所がわからない場合に、裁判での解決を望むのであれば、通常訴訟を検討することになります。通常訴訟であれば「公示送達(裁判所に訴状が掲示される)」によって提訴が可能です。
私が気がかりだったのは、領収書や契約書、借用書といった書類を交わしていなかったことです。それでも証拠として、利息の支払い、元金の全額返済を約束したメール、LINE、口座の振込記録は残っていました。
少額訴訟で勝訴判決を得るには、次の点が必要です。
・相手の住所・連絡先
・証拠
・訴状
契約書や借用書、領収書があれば有力な証拠になるものの、個人間のお金のやり取りでは、これらの書類を交わすことは多くないでしょう。それでもメールやLINEのほか、口座の振込記録は少額訴訟の証拠として十分です。
証拠は時系列で整理し、「甲〇号証」といった具合にナンバリングします。といっても証拠に形式はありません。スクリーンショットで保存した証拠を、印刷して「証拠書類1」などとそれぞれに記入するだけでもかまいません。証拠は訴状とともに簡易裁判所に提出します。
私は被害に至った経緯を、訴状のほかにも「陳述書」にまとめました。陳述書の提出は任意で、形式もありません。ただ裁判官は原告と被告の関係や事情を知らないため、念を入れてアピールしようと考えたのです。

訴訟を起こすには?準備と流れを完全ガイド
訴状の書き方
訴状には「請求の趣旨」と「請求の原因」を書きます。そして誰に、なぜ、いくら請求するのかを具体的に説明します。訴状の書き方はこのサイトや、裁判所の公式サイトのテンプレートを参照してください。
少額訴訟の裁判当日の流れ
少額訴訟は、裁判官と司法委員、原告、被告の話し合いによって進行します。裁判官が互いの主張を聞き、和解に終わることもあります。少額訴訟では8、9割が和解になるようです。
私の少額訴訟の裁判では相手が欠席したため、開廷から2、3分で終了しました。被告の「欠席裁判」によって、私の訴えを全面的に認める判決が出ました。
裁判では被告が欠席した場合、原告の主張を認めたものとみなされます。相手は「答弁書」を提出するどころか、訴状さえ受け取らなかったのです。
大切なのは判決後
相手が払わなかったら差し押さえ
私にとって少額訴訟よりも大変だったのは、差し押さえでした。相手が少額訴訟の判決に従わないことは、あらかじめ予想がついていました。そのためお金を回収するためには、相手の資産を差し押さえて、強制執行するしかありませんでした。
差し押さえと強制執行には「債務名義」、つまり法的根拠となる判決が必要です。少額訴訟は債務名義を得るための第一歩です。
支払督促と少額訴訟
少額訴訟以外にも「支払督促」という制度があります。支払督促は裁判を経ることなく、相手に支払いを請求できるため、少額訴訟よりも手間がかかりません。
ただ、支払督促と少額訴訟のどちらであっても、相手の異議申し立てにより、通常訴訟に移行するリスクがあることに変わりはありません。私も少額訴訟を提訴した時点では、相手の出方はわかりませんでした。
差し押さえの実際
差し押さえの対象は預金・給与・動産・不動産
私は少額訴訟の判決が出ると、すぐに差し押さえの準備を始めました。
差し押さえの対象となるのは、相手が会社員である場合は給与、銀行口座の預貯金、車やパソコンなどの動産、土地や家といった不動産などが一般的です。
ただ、動産や不動産の差し押さえには「競売」が必要になります。また相手の動産や不動産を突き止めるのも簡単ではありません。私は早々に、これらを差し押さえ対象から除外しました。
差し押さえにかかった費用
差し押さえには、債務名義となる少額訴訟の仮執行宣言付き判決正本のほか、判決の送達証明書(相手に判決が届いたこと)、裁判所に提出する差し押さえ命令申立書が必要です。差し押さえの手続きにかかった費用は、収入印紙と切手代を合わせた数千円でした。
ただ相手が少額訴訟の判決を受け取らない場合(送達しない)は、公示送達の申し立てが必要になります。公示送達は判決を裁判所に掲示することで、相手に「送達」したとみなす制度です。公示送達の申し立てには、付郵便送達と同じように相手の住居調査が必要です。
私の場合は差し押さえの費用として、探偵事務所に依頼した公示送達の住居調査費用(約2万円)が必要になりました。住居調査費用は相手に請求できないため自己負担です。ただ自力での調査が可能であれば、現地までの交通費ぐらいしかかかりません。
差し押さえ成功までのリアル
私が差し押さえたのは相手の証券口座でした。お金を振り込んだ銀行口座は、すでに差し押さえがかかっており、回収が見込めなかったからです。
証券会社名はSNSで把握していました。相手は証券口座のスクショをSNSに投稿して、「株でいくら稼いだ」とさかんにアピールしていたからです。
ただ証券口座の差し押さえは私にとって簡単ではありませんでした。ネット検索しても、申立書のサンプルはなかなか見つかりません。そして私が提出した差し押さえ命令申立書は記載ミスばかりで、裁判所で3週間ほど後回しにされていました。これは裁判所のせいではなく、自己責任です。
私は電話やFAXで裁判所のアドバイスを受けながら、差し押さえ命令申立書を何度も書き直しました。30万円全額と遅延損害金などを取り立てることができたのは、少額訴訟を提訴してから8か月がたったころでした。
簡単ではない?証券口座の差し押さえ
第三者への陳述催告
差し押さえ命令を申し立てた時点では、相手の口座などにどのくらいの資産があるかはわかりません。
そこで裁判所に差し押さえ命令申立書を提出する際に、「第三者への陳述催告」を合わせて申し立てると、銀行や証券会社、相手の勤務先などから相手の資産状況を知らせる陳述書が裁判所を通じて届きます。
この陳述催告によって、証券や現金などの金額を把握することができ、差し押さえの対象を決めることができます。
もし陳述催告によって相手の資産が回収額に満たないことが判明した場合は、別の口座を改めて探すか、差し押さえ命令申立を取り下げることになります。
取り立ては「自己責任」
私は差し押さえ申立書を何度も書き直し、これでようやく強制執行(取り立て)できる!というところで、また壁にぶち当たりました。証券会社のどの部署が取り立てに対応しているのか皆目わからなかったのです。そのような説明は、公式サイトのどこを探してもありません。
証券会社の問い合わせ先に電話しても、「なんの資格があって連絡しているのか?」という不信感がありありで、まったく要領を得ないままに終わりました。そこでお客様問い合わせメールで、住所、氏名、訴訟の事件番号、これまでの経緯などを整理して伝えたところ、ようやく証券会社も裁判所に確認してくれたようでした。
裁判所は判決を出すこと、差し押さえ命令を認める役割までは担ってくれるものの、差し押さえと強制執行(取り立て)は債権者自身で対応するしかありません。回収できるかどうかはあくまでも自己責任です。
私は少額訴訟から差し押さえまですべて(付郵便送達と公示送達の住居調査を除いて)自力で乗り切りましたが、訴状や申立書の作成は弁護士や司法書士といったプロの力を頼るべきだったかも?と何度も後悔しました。
弁護士や司法書士に相談・依頼すれば数万円の費用はかかりますが、精神的なストレスからは解放されるのではないでしょうか。回収の「必要経費」と考えれば安いものかもしれません。