欠席裁判で勝訴!でも「判決の送達」でつまずく
私は詐欺によって30万円を失いかけました。ところが警察に「被害」を相談しても、「事件」として取り合ってはもらえませんでした。警察が動いてくれないといっても、費用の問題から、弁護士にも頼ることもできません。残された手段は、少額訴訟を起こして自力で回収する以外にありませんでした。
少額訴訟の裁判が開かれたのは、提訴から3か月後でした。被告は少額訴訟の裁判に現れませんでした。私の全面勝訴に終わり、「支払い命令付きの判決」が出ました。裁判では被告が欠席した場合、「欠席裁判」として原告の主張が認められることになります。
私にとって、欠席裁判になることは想定内でした。相手は少額訴訟の訴状も受け取ることなく、原告に反論する「答弁書」も裁判所に提出しなかったからです。そんな相手が、少額訴訟の裁判に出廷して反論するとは思えませんでした。
付郵便送達の申し立て
少額訴訟で私が最も苦心したのは裁判ではありませんでした。相手の欠席裁判によって勝訴することができたからです。
私が少額訴訟のプロセスで最も手こずったのは「付郵便送達」の申し立てでした。付郵便送達とは、相手に訴状が郵送された時点で、相手が訴状を受け取ったとみなす制度です。
裁判では相手が訴状を受け取らない(送達しない)限り、裁判を始めることはできません。しかしながら、それでは相手は訴状の受け取り拒否を続ければ、裁判を回避できることになってしまいます。付郵便送達が設けられているのは、裁判による解決を望めなくなる不利益を防ぐためです。
ただし付郵便送達の申し立てには、相手の居住調査が必要です。電気・ガス・水道メーター、郵便受けの状況、住民への聞き込み、建物外観の撮影などによって、「相手が住所地に暮らしていながら、訴状を受け取らない」ことを証明しなければなりません。
私の少額訴訟の相手は遠方に暮らしており、自力での住居調査は困難でした。そこでネットで探した探偵事務所に居住調査を依頼しました。料金は2万円ほどで、数ある探偵事務所の中でも最もリーズナブルでした。とはいえ、付郵便送達の居住調査費用は、少額訴訟の費用(収入印紙代と予納郵券代の計9000円ほど)よりお金がかかってしまいました。
私は探偵事務所から届いた居住調査報告書と、別途取得した相手の住民票を添付し、付郵便送達の申立書を簡易裁判所に郵送しました。
その数日後、付郵便送達の申し立てが認められ、改めて裁判期日の連絡がありました。私は付郵便送達という制度自体についての知識はなにもなく、まったくの手探りでした。それでも、裁判が開かれさえずれば、少額訴訟には勝訴できるのでないかという見通しが立ちました。
なぜ判決の受け取りが重要?法律的な補足説明
少額訴訟は相手の欠席裁判によって勝訴したものの、ここからがまた大変でした。まず相手が少額訴訟の判決を受け取らなかったからです。
判決は、被告が「判決を受け取ってから2週間」経過してはじめて効力を持ちます(これを「送達」といいます)。この間に、被告は少額訴訟の判決が送達してから2週間の間に「異議申し立て」が可能だからです。
判決後の流れは以下の通りです。
少額訴訟判決の送達(民事訴訟法より)
- 民事訴訟法 第378条第1項:判決の送達を受けた側は、2週間以内に異議申し立て可能。
- 異議申し立てがあった場合、第379条第1項により、通常訴訟に移行して再審理。
- その後の判決には、控訴はできない(第377条)。
裁判では被告に「判決文が届いてから2週間」が重要です。
しかしながら、そもそも被告が判決を受け取らなかった場合には、判決は効力を持ちません。つまり少額訴訟で勝訴しても、その判決を「債務名義」つまり法的根拠として、差し押さえを申し立てることはできないことになります。

判決を無視されてからの行動:私がとった3つの対策
被告が判決を受け取らなかったのは、少額訴訟を起こされた後に、住民票上の住所から引っ越していたためです。
被告が判決を受け取らないことも、私には想定内でした。少額訴訟を提訴した際にも、訴状を受け取らなかったからです。ただ、引っ越すことになるとは想定外でした。まるで相手が「逃亡」を図っているようで、このままお金を回収できないのではないかという不安が募りました。
被告が少額訴訟の判決を受け取らなかったことで、私は次の対応を迫られました。
- 探偵事務所に依頼して「実際に住所地に住んでいない」ことの証明(調査費用2万円)
- 役所から住民票の取り寄せ
- 裁判所に「公示送達」の申し立て
付郵便送達と同じように、今度は公示送達の申し立てが必要になりました。公示送達は、判決が裁判所に掲示されることで、相手に送達したものとみなす制度です。
判決が相手の住所地から返送されてきたため、私は裁判所から対応を尋ねられました。相手の転居先がわからなかったため、公示送達を申し立てることにしました。
公示送達も付郵便送達と同じように、相手の居住調査が必要になります。調査の目的は「相手が住所地に暮らしていない」ことと「転居先がわからない」ことを証明することです。
私は付郵便送達を申し立てたときと同じ探偵事務所に居住調査を依頼しました(公示送達申立書の記入例は裁判所のサイトを参照してください)。それと同時に、役場に相手の住民票の写しを請求しました。
焦りと不安…資産隠しへの恐れと時間のロス
少額訴訟判決の「正本」が届くまで1週間がたちました。さらに公示送達の住居調査などに2週間ほどが経過しました。少額訴訟から約1か月、判決はもらったものの、お金の回収に向けて動くことはできませんでした。
お金の回収は、時間との戦いになります。
時間がたつうちに、相手がお金を使ったり、資産隠しをしたりするリスクが高まります。私のケースでも、相手が引っ越して行方知れずになってしまいました。これでは少額訴訟の判決が出ても、お金を回収できる可能性は低くなります。
さらに訴訟を管轄する簡易裁判所が大都市にある場合は、訴訟件数が多いため、判決の発送に時間がかかることになります。焦った私は、簡易裁判所に「判決を発送しましたか?」と電話で確認したほどでした。
まとめ|少額訴訟で本当にお金を取り戻すには
- 少額訴訟の判決は「送達から2週間」で効力を持つ
- 被告が判決を受け取り拒否すれば、手続きが進まない
- 公示送達(あるいは付郵便送達)の申し立てで、さらに時間とお金が必要に
私のケースのように、少額訴訟で支払い命令付きの判決が出ても、すぐさま「差し押さえ・強制執行」を申し立てられるわけではありません。判決が相手にも送達する必要があるからです。
私のケースでは相手が判決を受け取らなかったため、公示送達の手続きに時間と労力を費やすことになりました。判決確定は少額訴訟から1か月以上ずれ込んだのです。
この間は気をもみましたが、相手の資産の把握、差し押さえ命令・強制執行の申立書の作成方法を調べるなど、回収に向けて地道に準備するしかありませんでした。
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