少額訴訟で勝訴しても判決は無意味?判決送達と差し押さえに立ちはだかる壁【体験談・前編】

alt="少額訴訟の判決文とハンコのイメージ" 差し押さえ・強制執行体験
少額訴訟での勝訴判決は受け取りから2週間で効力が発生する。

欠席裁判で勝訴!でも「判決の送達」でつまずく

信頼していた相手にお金を騙し取られた私は「貸金請求事件」として、少額訴訟を起こしました。

相手方(被告)は少額訴訟の裁判に出廷することなく、私の訴えを全面的に認める「支払い命令付きの判決」が出ました。少額訴訟と通常訴訟のいずれも、被告が裁判に出席しなかった場合は、「欠席裁判」として、原告の主張を認めたものとみなされます。

そもそも相手は、少額訴訟の訴状すら受け取りませんでした。原告の主張に対して反論する「答弁書」の提出もありません。「戦うことを放棄した」ような相手が、少額訴訟の裁判に姿を現して反論するとは考えられませんでした。欠席裁判によって勝訴判決が出るということは、相手の対応から予想がついていました。

それでも相手が少額訴訟の訴状を受け取らなかったため、私は簡易裁判所に付郵便送達(相手に訴状が郵送されたことをもって、相手が訴状を受け取ったとみなす制度)の申し立てをしなければなりませんでした。少額訴訟そのものより、この付郵便送達の手続きが大変で、費用もかかりました。

付郵便送達の申し立てには、相手の居住調査が必要になります。

私の少額訴訟の相手は遠方に暮らしていました。そのため、居住調査はネットで見つけた探偵事務所に依頼することにしました。料金は2万円ほど。少額訴訟の提訴から、差し押さえ、強制執行によってお金を回収するまでは、弁護士や司法書士に頼ることなくすべて自力でしたが、この居住調査には、最もお金がかかりました。

少額訴訟で支払い命令付きの判決を得たことには、苦労が報われた思いでした。ただ「これでお金が戻ってくる」わけではありません。少額訴訟の勝訴は序の口で、さっそく、次の山が待ち構えていました。

なぜ判決の受け取りが重要?法律的な補足説明

少額訴訟の判決を原告側が受け取っても、自動的に効力を生じるわけではありません。

少額訴訟の判決は、被告が「判決を受け取ってから2週間」経過することではじめて効力を持ちます。この2週間の間に、被告には少額訴訟の判決に対して「異議申立て」が認められています。

それは以下のような流れになります。


少額訴訟判決の送達(民事訴訟法より)

  • 民事訴訟法 第378条第1項:判決の送達を受けた側は、2週間以内に異議申し立て可能。
  • 異議があった場合、第379条第1項により、通常訴訟に移行して再審理される。
  • その後の判決に対しては、控訴はできない(第377条)。

つまり少額訴訟の原告にとって、被告に「判決文が届いてから2週間」がとても重要になります。

もしも被告が判決の送達を拒否する、つまり郵送されてきた判決を受け取らなかった場合はどうなるでしょうか?この場合、判決は効力を持たないままです。したがって、この時点では少額訴訟の判決を根拠(債務名義)として、相手の資産を差し押さえることはまだできないことになります。

alt="少額訴訟の判決文とハンコのイメージ"
少額訴訟での勝訴判決は受け取りから2週間で効力が発生する。

判決を無視されてからの行動:私がとった3つの対策

実際に私のケースでは、被告が判決を受け取りませんでした。じつは被告は私から少額訴訟を起こされた後、住民票上の住所から引っ越していたのです。

被告が判決を受け取らないことは、少額訴訟の訴状を受け取らなかったことからも、想定内でした。そもそも被告は、自身が少額訴訟を起こされたことすら知らないのかもしれません。しかし、被告が住所地から引っ越すとは想定外でした。まるで被告が「逃亡」を図っているように思えたからです。

被告が少額訴訟の判決を受け取らなかったことにより、私は以下のような対応を迫られることになりました。

  • 探偵事務所に依頼して「実際に住所地に住んでいない」ことの証明(調査費用2万円)
  • 居住実態調査に基づいて、裁判所に「公示送達」の申し立て
  • 役所から住民票を取り寄せて現住所を確認

少額訴訟の判決でも、訴状の受け取り拒否によって付郵便送達を申し立てたのと同じように、今度は公示送達の申し立てが必要になりました。簡易裁判所から対応確認の電話を受けた私は、迷わず公示送達を申し立てることにしました(公示送達申立書の記入例は裁判所のサイトを参照)。

焦りと不安…資産隠しへの恐れと時間のロス

相手が少額訴訟の判決を受け取らなかったために、公示送達のプロセスだけで2週間以上が経過しました。最終的に判決から1か月以上、判決の送達が完了するまで、お金の回収に向けて行動することはできませんでした。

少額訴訟の提訴から差し押さえ、強制執行によってお金を回収するのは、時間との戦いです。

相手が時間を稼ぐうちに、資産を隠す可能性があります。実際に私のケースでは、被告がどこかに引っ越して、行方知れずになってしまいました。これでは、少額訴訟の判決を得ても、お金を回収できる可能性はますます低くなります。

また、少額訴訟を管轄しているのが大都会の簡易裁判所である場合、訴訟の件数が多いため、少額訴訟の判決が出ても即日発送されるわけではありません。焦った私は少額訴訟が開かれた簡易裁判所に「もう判決を発送しましたか?」と確認の電話をしたほどでした。

まとめ|少額訴訟で本当にお金を取り戻すには

  • 少額訴訟の判決は「送達を受けてから2週間」で効力を持つ
  • 被告が判決の受け取りを拒否すれば、手続きが進まず支払いも滞る
  • 居住調査・付郵便送達・公示送達といった対応で、さらに時間とお金が必要になる

少額訴訟によって支払い命令付きの判決を得ても、「差し押さえ・強制執行」を申し立てるには、さらに壁があります。その間は焦る気持ちを抑えつつ、相手の資産を把握したり、差し押さえ命令・強制執行の申立書の作成方法を調べたりするなど、回収に向けて準備を進めるしかありません。

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