投資詐欺に遭った私の体験
「お金を出資してくれたら、毎年5%の利息を支払い、元金を返済します」
私が遭ったのは、いわゆる投資詐欺・出資金詐欺でした。
お金を募った相手は「元金を全額返済する」と約束していたものの、約束は守られませんでした。利息が支払われたのは2年だけで、元金は一銭も「返済」されませんでした。
こちらが返済を求めても、相手は「集めたお金でビジネスを始めるつもりだった」と釈明しました。ところがさらに追及したところ、「騙された方が悪い」とこちらに責任を転嫁して居直るようになったのです。しまいには返済の要求さえ受け付けなくなり、元金の返済まったく見通せなくなりました。
なぜ警察は詐欺の捜査に動いてくれないのか?
振り込め詐欺との違い
私は警察に「被害」を相談しましたが、まったく取り合ってもらえませんでした。振り込め詐欺などの特殊詐欺が社会問題化しているのだから、私が遭った「詐欺」も捜査してくれるものと思っていたのです。
それでは投資詐欺と、振り込め詐欺などの特殊詐欺はどこに違いがあるのでしょうか。じつは刑法上の「詐欺罪」で立件するためには、次の要素(構成要件)が必要です。
- 「欺く意思(欺罔行為)」
- 「被害者が錯誤に陥ったこと」
- 「財物の交付があったこと」
振り込め詐欺は刑法上の詐欺罪の構成要件を明白に満たしています。そのため、警察も積極的に捜査に乗り出すことができるのです。さらに振り込め詐欺が社会問題化しているため、放置するわけにはいかないという事情もあります。
しかし、投資詐欺の場合は、振り込め詐欺とは少し事情が異なります。
「欺く意思」を立証するハードル
たとえば投資詐欺では、
- 相手に「欺く意思があった」
- それによって「錯誤に陥った」
これらの客観的な証拠が残っていないケースが少なくありません。
警察が捜査したところで、相手はおそらく「運用に失敗した」と主張するでしょう。つまり詐欺罪の構成要件である「欺く意思」とそれによる「錯誤」を裏付けることは困難になります。
筆者のケースで警察が取り合ってくれなかったのも、こうした事情が一因なのでしょう。さらに警察も人員が十分ではないため、立件の可能性の低いケースは優先してくれません。

出資法違反にも時効がある
一方、高利や元本保証をうたって出資を募る行為は出資法違反罪にあたる可能性があります。ただ出資法違反の公訴時効は、出資を募ってから3年です。
私のケースでも、相手が元金の返済を拒んだのは、お金を集めて3年後のことでした。それまでの2年間は利息を支払って、時効までの時間を稼いでいたのでしょう。
もっとも、それも私の「推測」にしかすぎません。相手も「時効を迎える3年後に返済を拒否しよう」といった計画を、メモなどに残すことはないでしょう。こうなると詐欺罪の構成要件である「欺く意思」を裏付ける証拠はないことになります。
警察が動いても刑事事件化は難しい
筆者のような「投資詐欺」のケースでも、警察は「相談」に応じてくれるかもしれません。ただし「相談」から「捜査」につながるとは限らないのです。
さらに被害額が軽微であると、お金の貸し借り、金銭トラブルといった「私人間の問題」ととらえられかねません。こうなると「民事不介入」の原則から、警察も私人間の問題に関与しづらい事情もあるのです。
警察以外で被害金を取り戻す方法は?
示談を狙う場合
ただ、警察が捜査に動いてはくれなくても、「被害」を相談することで、動きを知った相手が示談を申し入れてくる可能性はあります。
もし刑事事件として相手に有罪判決が下った場合に、被害回復給付金支給制度を利用できる可能性もあります。ただこの制度が適用されるのは振り込め詐欺などの組織的犯罪です。個別の投資詐欺で有罪になったとしても、「組織的」に行われたかどうかという条件があります。
そのため、詐欺被害が刑事事件になったとしても、それが必ずしも被害回復に結び付くとは限りません。
弁護士に依頼できないケースもある
詐欺被害の刑事事件化が難しければ、弁護士に依頼するなどして民事訴訟を起こすしか、資金回収の道はありません。問題は相手に資産が残っていないケースが少なくないことです。
こうした場合、民事訴訟で勝訴しても回収が困難です。そのため、弁護士費用が上回る「費用倒れ」になるリスクがあります。こうなると弁護士も、回収の可能性の低い案件の「受任」を断ることがあります。
自力で少額訴訟を起こすという選択肢
ここまで説明してきたように、筆者は警察も弁護士も頼ることができませんでした。
筆者の「被害」は30万円でした。これぐらいの金額では、弁護士に依頼したところで赤字になってしまいます。また弁護士も引き受けてはくれないでしょう。
そのため筆者は、自力で少額訴訟を起こすしかありませんでした。訴訟額も30万円で、少額訴訟の60万円以下という条件に収まっていました。また本人訴訟の少額訴訟であれば、収入印紙代や予納郵券を含めても、1万円程度の費用しかかかりません。
ただ実際には少額訴訟を管轄する簡易裁判所までの交通費が必要です。少額訴訟は原則的に「相手の住所地を管轄する簡易裁判所」で開かれるため、相手が遠方に暮らしていると、それだけ交通費もかさみます。
また相手が訴状を受け取らなかった場合には、「付郵便送達」を申し立てが必要になります。付郵便送達とは「訴状が郵便局から発送されたことをもって、訴状が相手に送達(届いた)とみなす」制度です。ただ付郵便送達の申し立てには、「相手が住所地に暮らしていながら、訴状を受け取らない」ことを証明する住居調査が必要です。この住居調査を探偵事務所などに依頼した場合、数万円の費用がかかります。
少額訴訟とはいえ、数万円の費用がかかることもあります。ただ1回の審理で判決または和解の結果が出るため、弁護士に依頼して通常訴訟を起こすよりも、はるかに低コストで手間も時間もかかりません。
まとめ|警察が動かないなら、自分で動くしかない
筆者のように「詐欺被害」に遭った場合でも、警察が必ずしも捜査に動いてくれるわけではありません。刑事事件化のハードルは高く、少額訴訟を利用して、自力で回収に動くしかありませんでした。
弁護士に依頼しなくても、少額訴訟なら、数千円から数万円の費用で回収の可能性が生まれます。
当然ながら被害に遭わないことが一番です。もし被害に遭ったら、まずは警察や弁護士に相談しましょう。それでも事態が進展する可能性がなければ、少額訴訟などを利用した自力での回収も検討すべきではないでしょうか。
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