少額訴訟で支払い命令を勝ち取ったのに…差し押さえが進まなかったワケ【体験談・中編】

少額訴訟で勝訴した際に交付される裁判所の判決文イメージ 差し押さえ・強制執行体験
少額訴訟で勝訴しても、実際にお金を回収するには強制執行などの手続きが必要。

相手が判決を受け取らないと、効力が生じない?

少額訴訟で預けたお金の返還を求める「貸金請求事件」を起こした私は、相手が裁判に欠席したため、全面的に勝訴することができました。少額訴訟の判決には「支払い命令」が付いており、一見するとこれですぐにお金の回収ができると思ってしまいがちですが、じつはそうではありません。

少額訴訟に限らず、判決は「相手がその判決を受け取ってから2週間で効力が生じる」というルールがあります。少額訴訟の相手は、判決文を受け取りませんでした。相手が判決を受け取らないかぎり、法的な効力が発生しない──つまり、少額訴訟の勝訴も“絵に描いた餅”のような状態でした。

居住調査のために探偵事務所へ依頼

私は裁判所に「公示送達」の申立てを行いました。これは、相手が少額訴訟の判決の受け取りを拒んでいる場合でも、裁判所に判決が掲示されることで、判決が送達したとみなす制度です。

相手が少額訴訟の判決を受け取らないことは、想定内でした。少額訴訟を起こしたときも、相手は訴状を受け取らなかったからです。このときは少額訴訟の訴状の受け取り拒否によって、一度決まった裁判日程は、1か月以上ずれこむことになりました。

今回も少額訴訟の訴状提出時に付郵便送達を申し立てたのと同様に、同じ探偵事務所に依頼し、公示送達の居住調査をしてもらいました。少額訴訟の訴状提出時とは違って、今度は相手がすでにその住所を退去しており、判決を物理的に受け取ることができなかったのです。

そのため、ガス・電気・水道メーターが停止していること、郵便受けの空き状況、近隣住民への聞き込み、建物外観写真の撮影、住民票の取得などによって、相手が「現住所には住んでいない」ことを証明しなければなりませんでした。公示送達の申し立てには、相手の転居先を突き止める必要はありません。

プロの探偵事務所にとって、公示送達の住居調査は難しい仕事ではないのでしょう。依頼から1週間ほどで、調査結果が届きました。こうした調査結果の送付は郵送、メール両方に対応してくれます。とくに家族に知られたくない場合は、メールで公示送達の住居調査結果を送ってもらったほうが無難です。

少額訴訟で勝訴した際に交付される裁判所の判決文イメージ
少額訴訟で勝訴しても、実際にお金を回収するには強制執行などの手続きが必要。

ようやく「判決の送達完了」…すぐに強制執行を準備

支払い命令付き判決を債務名義として使える段階へ

少額訴訟の判決が出てから2週間以上、その後さらに2週間近く、計1か月を費やして相手の住居調査と公示送達の申し立てを行いました。その結果、判決が裁判所の掲示板に1週間公示され、ようやく「判決の送達が成立」したことを裁判所に確認しました。

少額訴訟自体は1回、しかも相手の欠席裁判によって、数分で終わりました。しかし少額訴訟の判決が効力を生じるまでに、1か月半近くの時間がかかったのです。ここからがお金の回収に向けての本当の勝負でした。

少額訴訟の判決が公示送達によって効力を生じてすぐに、私は「差し押さえ命令」と「強制執行」の申立書を裁判所に送付しました。なぜなら、相手が資産隠しを始める可能性があると考えたからです。

現に相手は少額訴訟を提訴された後で、住居を引き払って、転居先もわからなくなっていました。おそらく相手も警戒を強めていることが伝わってきました。

まさかの事態!差し押さえ申立書に不備が…

書類を送ったのに、裁判所から何の連絡もない?

判決の送達を確認するとすぐ、差し押さえ命令申立書を作成し、裁判所へ郵送しました。手続きが進むことを期待していたのですが、そこから3週間ほどが経っても、裁判所からは何の連絡もありません。

痺れを切らして裁判所に電話を入れると、驚くべきことに「申立書に不備があったため、そのまま放置されていた」と告げられました。少額訴訟で支払い命令付きの判決を得て、ようやく差し押さえと強制執行にこぎつけたというのに、せっかくの時間がみすみす無駄になってしまったのです。

体験から学んだ教訓:強制執行には「スピードと正確さ」が必須

相手に資産を隠されないうちに動くこと

今回の経験を通じて痛感したのは、「少額訴訟で勝訴しても、実際にお金を回収するまではまったく安心できない」ということです。特に、相手が少額訴訟の判決を受け取らなかったり、転居などで資産を隠す動きをしている可能性がある場合は、スピード感が命です。

申立書の不備で、貴重な時間を失わないために

もう一つの教訓は、「差し押さえ命令申立書の不備」に要注意ということ。差し押さえ命令申立書の提出後はミスがあると、対応が後回しにされかねません。ミスのない申立書のほうが、優先的に処理されるのは当然です。提出から時間がたっても連絡がない場合は、裁判所に確認の連絡を入れることをおすすめします。

とくに訴訟件数を多く抱える大規模な裁判所の場合、差し押さえや強制執行の申立書に不備があると、いつまでも後回しにされる可能性があります。裁判所の書記官も、一人で複数の案件を抱えているため、仕方ありません。

少額訴訟の訴状と違って、差し押さえ命令や強制執行は、相手の財産に制限をかけることになります。そのため、差し押さえ命令や強制執行の申立書はチェックに慎重を期す必要があり、裁判所の形式や法律用語に沿って、一字一句正確に記入しなければなりません。

差し押さえ命令や強制執行の申立書作成は、司法書士などの専門家に依頼するのもひとつの手です。作成には数万円の費用がかかるとはいえ、せっかく少額訴訟で支払い命令付きの判決を得たのですから、お金を確実に回収するためには、「必要経費」と割り切ることも検討すべきでしょう。

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