はじめに|借用書や契約書がなくても裁判は起こせる?
投資詐欺や借金など、個人間でお金をやり取りする際には、借用書や契約書を交わさないケースは少なくありません。相手がいつまでも約束どおりお金を返してくれない場合に、「書類がなければ訴訟できないのでは…」と不安になる方もいるでしょう。
しかし実際には、借用書や契約書がなくても少額訴訟で返済を求めることは可能です。
借用書なしでも金銭消費貸借契約は成立する
民法上、お金を貸した・借りたという意思、お金を渡したという事実があれば、金銭消費貸借契約は成立します(民法587条)。
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
借用書や契約書の有無にかかわらず、金銭消費貸借契約が成立するため、借主は貸主にお金を返還する義務が生じます。借主と貸主の間でのお金の授受の事実と返済の約束があったことが証明できれば、金銭消費貸借契約を根拠として、貸金請求訴訟は可能です。また借金の額が60万円以内であれば、弁護士を付けずに、原則1回の裁判で判決を得られる少額訴訟を起こして、相手にお金の返済を求めることができます。
少額訴訟で有効な証拠とは?
銀行振込の記録
個人間とはいえ、お金を貸す際には借用書や契約書といった書面を交わすべきでしょう。とはいえ、お金を貸したことや、返済期日を示す借用書や契約書がなくても、銀行口座への振込履歴は、金銭の受け渡しを示す確かな証拠になります。ネットバンキングの履歴が古くて閲覧できない場合でも、銀行に請求すれば紙の取引明細を取り寄せることが可能です。
メールやLINEのやり取り
- 返済を約束するメール
- LINEでの「返す」「いつまでに」などの発言
- 返済時期や金額についてやりとりした画面のスクリーンショット
投資詐欺や借金の借用書や契約書がない場合でも、メールやLINEなどのデジタル証拠は非常に有効です。ただしLINEは相手に削除されることもあるため、早めに保存・印刷しておくことが重要です。
証拠が弱い場合は陳述書も提出可能
借金の借用書や契約書がない場合でも、
- お金を渡した経緯
- 相手との関係
- 返済の約束内容
などをまとめた陳述書を自分で作成し、少額訴訟などの証拠として提出することもできます。陳述書には決まった形式はなく、原告と被告の関係、お金を渡した経緯、返済の期日などを文章にまとめて記入します。

借金には時効があるので要注意
少額訴訟などによって相手に貸金返還請求をする場合に、注意が必要なのは、借金には「消滅時効」があることです。2020年4月1月の民法改正により、個人間の貸し借りの消滅時効はお金を貸した日から原則5年です(それ以前は10年)。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
ただし、以下のようなケースでは消滅時効が延長・中断されることがあります。
借金の時効が延長・中断される主な例
- 内容証明郵便で返済を催告すると、消滅時効が6か月の延長
- 少額訴訟などの裁判や支払督促を申し立てると、消滅時効が中断し、ゼロから再計算
- 相手が一部返済した場合は、債務の承認とみなされ、消滅時効中断
時効が過ぎても返還請求できる場合もある
借金の消滅時効は、一定期間が過ぎるだけで自動的に成立するわけではありません。相手が「時効を援用する」ことを貸主に明言することではじめて成立します。つまり、時効期間が経過していても、相手が時効を主張しなければ少額訴訟などで返還請求できる余地があります。
とはいえ、相手から借金の消滅時効の援用を通知される前に、貸主としては消滅時効を延長・中断させるために早めに動く必要があります。
まとめ|借用書や契約書がなくても諦めないで
借用書や契約書がなくても、金銭消費貸借契約が成立しているため、借金の返済を求める少額訴訟などを起こすことが可能です。投資詐欺などの場合も同様に、返済を前提としてお金を渡した事実があれば、相手に「貸したお金」の返済を求めることができます。
その場合には借用書や契約書といった書面がなくても、LINEやメールなどのやり取りや、口座の振込記録を証拠にして貸金請求訴訟を提訴することができます。もちろん、お金のやり取りには、借用書や契約書を交わしておくことが重要であることはいうまでもありません。
とくに投資詐欺や借金の金額が60万円以内であれば、弁護士をつけなくても、原則1回の審理で判決が出る少額訴訟を利用することができます。少額訴訟は通常訴訟に比べて、解決のための時間もお金の負担も軽くなります。
- 振込記録
- LINEやメールのやり取り
- 陳述書
などを活用し、借金の消滅時効に注意しながら訴訟を進めることが可能です。
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