はじめてでもわかる少額訴訟の進め方
60万円以下の請求に限って、1回の審理で判決または和解によって解決できる裁判が「少額訴訟」です。
筆者は裁判の原告・被告のいずれも経験したことがなく、裁判や法律についてはまったくの初心者でした。それでも弁護士にも司法書士にも依頼・相談することもなく、自力の「本人訴訟」で、少額訴訟に勝訴。差し押さえと強制執行でお金を全額回収することができました。
当然ながら、経済的に余裕のある方やツテのある方は、弁護士や司法書士といった専門家を活用することをお勧めします。本人訴訟よりもスムーズで、手間や精神的なストレスも軽くなります。
ここでは、実際に少額訴訟を起こす際の一連の流れを、ステップごとに分かりやすく解説します。
まずは少額訴訟が使えるか確認
金額と内容に条件あり
少額訴訟は「60万円以下の金銭の支払い」を求める場合に限ります。請求額が60万円を超える場合は、通常訴訟などを検討することになります。
年10回までしか提訴できない
少額訴訟は、原告1人につき年間10件までという制限もあります。複数の訴訟を検討している場合は、少額訴訟の回数に注意が必要です。
簡易裁判所に訴状を提出
相手の住所地を管轄する裁判所へ
少額訴訟は原則として、相手(被告)の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。たとえば相手が東京に住んでいる場合は、東京都内の簡易裁判所に訴状を提出することになります。簡易裁判所までの交通費は原告の自己負担となり、「訴訟費用」として被告に請求することはできません。
この相手の住所地とは住民票上の住所である必要はなく、実際に生活している住所や勤務先、事務所をさします。訴状が届く(送達する)住所であればかまいません。
ただし金銭請求(貸金請求や売掛金請求)の場合は、原告の住所地を管轄する簡易裁判所に提訴することができます。また原告と被告双方の同意があれば、任意の簡易裁判所を指定することも可能です。
訴状には収入印紙と証拠を添付
訴状には、少額訴訟の請求額に応じた「収入印紙」を貼付します。提訴の日付、管轄の簡易裁判所名、原告の氏名を記入。印を押します。
少額訴訟の収入印紙代
さらに「当事者の表示」として(原告・被告)の住所・氏名・連絡先を明記。請求額と収入印紙額、請求の趣旨、請求の原因、請求の根拠となる証拠(契約書、振込明細、メールのやりとりなど)を添付します。訴状の記載例については裁判所公式サイトを参考にしたり、書式をダウンロードしたりすることもできます。
裁判所から呼出状が届く
訴状提出後1~2週間で期日が決まる
少額訴訟の訴状を提出すると、簡易裁判所が内容を確認し、双方に「口頭弁論期日呼出状兼答弁書催告状」を送付します。通常、訴状の提出から1~2週間で裁判期日が決まります。原告には前もって裁判期日の候補について、簡易裁判所から打診があります。
ただし、扱う件数が多い簡易裁判所の場合は、訴状の提出から裁判期日まで時間がかかる可能性があります。
相手が訴状を受け取らなかったら?
問題は少額訴訟の裁判期日が決まったとしても、被告が訴状を受け取らない場合です。被告が訴状を受け取らない、訴状が「送達」しない場合、裁判は始まりません。被告の住所地に郵送された訴状は、簡易裁判所に返送され、裁判期日はいったん延期になります。
こうした場合、原告は簡易裁判所から対応を確認されます。原告の選択肢の一つは「付郵便送達」の申し立てです。付郵便送達は被告が訴状を受け取らなくても、郵便局から訴状を郵送したことをもって訴状が「送達」したとみなす制度です。
ただし付郵便送達の申し立てには、被告が住所地にいるにもかかわらず訴状を受け取らないことを、原告が証明しなければなりません。そのためには、被告の住居調査(電気・ガス・水道メーターの作動状況・写真、郵便受けの状況、建物の外観写真、住民への聞き込み、住民票の取得)が必要です。
付郵便送達の申し立てが簡易裁判所から認められれば、被告が訴状を受け取らなくても、少額訴訟の提訴が認められ、裁判期日があらためて決まります。原告本人による住居調査が難しい場合は、探偵事務所などに有料で依頼することもできます(住民票は原告本人が取得します)。
一方で、被告の住所がわからず、付郵便送達の申し立てが認められない場合は、少額訴訟を取り下げる必要があります。
相手が裁判に来ない場合は?
被告が裁判期日に出廷しなかった場合は、原告の主張が認められる判決が下されます(欠席判決)。

口頭弁論当日
準備しておくべきこと
・訴状、証拠書類の原本
・相手とのやりとりを時系列で整理したメモ
・質問されたときの受け答えのシミュレーション
これらをしっかり準備して少額訴訟に臨むべきです。筆者の場合、相手の欠席裁判で全面的に主張を認める判決が出ましたが、通常は裁判官が原告と被告両方の訴えを聞きます。
時間は10〜30分程度
少額訴訟は、1回の期日で判決が下され、時間も10〜30分程度で終了することがほとんどです。
判決とその後の対応
その場で判決が言い渡される
裁判官は審理終了後、即日で判決を言い渡し、その内容が記載された「判決正本」が後日送付されてきます。少額訴訟の8割ほどが、原告の勝訴に終わるといわれています。
ただし、少額訴訟では和解を促されるケースも少なくありません。
相手が支払わない場合は強制執行も
ただ、少額訴訟の判決が出ても、被告が支払いに応じない場合が少なくありません。その場合は少額訴訟の判決を債務名義(法的根拠)として、差し押さえと強制執行の手続きに移ることになります。被告の銀行口座や給与の振り込み口座などを把握しておき、差し押さえをかけます。
じつは少額訴訟の勝訴判決を得ることよりも、差し押さえ、強制執行のほうが難易度が高くなります。回収する資産を把握するのは、債権者(原告)です。少額訴訟で勝訴しても、回収の見込みがなければ、せっかくの判決も絵に描いた餅になりかねません。
まとめ
少額訴訟は、専門的な知識がなくてもスムーズに進められる裁判制度です。弁護士や司法書士に依頼すれば、少額訴訟に代理出席することもできますが、それなりの費用を覚悟しなければなりません。ただ、少額訴訟は請求額が少ない(成功報酬が少ない)ため、弁護士が訴訟代理人を引き受けてくれる可能性は高くありません。
少額訴訟の費用は収入印紙や予納郵券を合わせても、1万円前後と低額です。泣き寝入りする前に、一度少額訴訟を活用すれば、低コストで解決できる可能性が広がります。