コピーして使える訴状記載例とポイント
60万円以下の金銭トラブルを迅速に解決できる「少額訴訟」。少額訴訟を起こすには「訴状」を、裁判を管轄する簡易裁判所に提出しなければなりません。この記事では、専門的な知識がなくても書ける訴状のテンプレートを紹介しながら、記載時の注意点についてご説明します。
少額訴訟とは?60万円以下の請求を1回の裁判で
少額訴訟は、60万円以下の請求に限って、原則1回の審理で解決を目指す簡易な裁判です。少額訴訟は、ほとんどが弁護士を立てずに自力で訴える本人訴訟です。数回の審理を必要とする通常訴訟と違って、時間と手間、費用を抑えて裁判での解決を図ることができます。
ただし、少額訴訟を起こされた相手(被告)が、通常訴訟への移行を申し立てできることに注意が必要です。もしも通常訴訟に移行した場合は、複数回の審理が必要になり、少額訴訟よりも負担が増すことになります。また通常訴訟になると判決に対して「控訴」できるため、さらに裁判が長引くことがあります。少額訴訟でも判決に対して「異議申し立て」が可能ですが、再審理は1回に限られています。
訴状とは?少額訴訟のスタート地点
訴状には「原告」「被告」の氏名、住所、連絡先や「請求内容」「請求にいたった事実関係」を具体的に記入します。裁判所が訴状の内容をチェックしたうえで、問題がなければ被告に郵送します。裁判所公式サイトの記載例を参考にして訴状を作成することもできますが、決まった形式はありません。
訴状作成時のポイント
事実関係を時系列でわかりやすく
原告・被告の住所、氏名、連絡先を記入するほか、請求の原因となった出来事(トラブルなど)がいつ、どこで、だれとの間で起きたのかという経緯を時系列で具体的に説明します。
請求の金額と理由を明示
訴状には「誰に、いつ、いくらを払った(貸した)」という具体的な金額や契約内容のほか、「誰に、なぜ、いくら返金を求めるのか」という請求内容をわかりやすく記載します。

コピーして使える!少額訴訟の訴状テンプレート
以下は、貸したお金の返済を求める「貸金請求事件」の少額訴訟の訴状記載例です。
先述したように、訴状の記載例は裁判所公式サイトでもダウンロードできますが、記入欄が限られていることや、項目が少ないこともあり、やや説明不足になる恐れがあります。訴状に決まった形式はありません。そのため、原告それぞれのケースに合わせて記載内容をアレンジすることもできます。
以下は「5年間にわたって年5%の利息を支払う」という約束だったものの、「2年間だけ利息の支払いを受けた」だけで、相手に振り込んだ「元金30万円を約束の期日までに返済してもらえなかったため」、元金と未払い利息、遅延損害金の返済を求めた筆者の少額訴訟の訴状記載例です。
まず訴状の冒頭に「提出日」「管轄の簡易裁判所」「原告の氏名(右側に押印)」「当事者の表示:原告と被告の住所・氏名・連絡先」を記入します。
続いて「事件名」「訴訟物の価格(元金)」「貼用印紙額(収入印紙代)」を記載します。実際には「詐欺」のようなケースでしたが、事件名は「貸金請求事件」としています。少額訴訟は刑事訴訟とは違って、相手の行為が刑法上の詐欺罪に該当するかどうかを争うことはありません。少額訴訟では「貸した」お金の返済を筋道を立てて説明することになります。
訴状には分類上の「事件名」を記載する必要があります。この事件名で、少額訴訟の判決(または和解)が言い渡されることになります。また簡易裁判所に問い合わせする際にも事件名が必要になるため、非常に重要です。ただし、事件名の記載に決まりはなく、類似した事件名を参考にして決めることになります。事件名の記載例については裁判所の公式サイトをご参照ください。
訴状で最も重要になるのが「請求の趣旨」です。この例では元金30万円に「未払い利息4万5000円(3年分)」を加算しています。さらに元金30万円に対する「遅延損害金」と「訴訟費用」の支払いも被告に求めています。
この遅延損害金は「約束の返済期日」から「実際に支払われた日」までの日数で計算します。当事者間でとくに利率について約束がない場合は、元金に法定利率「年3%」をかけて計算します。遅延損害金の計算は、日割り計算になることが多く、計算は少し難しいところがあります(筆者も差し押さえ命令を申し立てる際に、裁判所から計算ミスを指摘されました)。
ただ少額訴訟の訴状を提出した時点では、「実際に支払われた日」がいつになるかはわかりません。差し押さえをした場合は、差し押さえ命令の申し立て日が「支払われた日」になります。そのため、訴状には遅延損害金の具体的な金額を記入する必要はありません。
遅延損害金の計算方法
遅延損害金は以下の計算式で求められます:
訴訟費用は主に少額訴訟の収入印紙代と予納郵券代です。また少額訴訟に「証人」がいた場合は、証人の旅費(人数分)も被告に合わせて訴訟費用として請求することができます。ただし簡易裁判所までの交通費などは訴訟費用に含まれません。
ただ訴訟費用の請求には裁判所への申し立てが別途必要になります。手続きの煩雑さと時間がかかることから、実際に請求する人は多くありません。
続いてトラブルにいたった「請求の原因」と「結語」を記入します。訴状にある「甲〇号証」は、請求の原因を裏付ける証拠(メールやLINEのスクリーンショット、口座の振込記録、契約書や領収書など)のナンバリングです。証拠の分類方法も決まりはないため、「証拠書類1」などと記載するだけでもかまいません。
少額訴訟訴状テンプレート
訴 状
令和〇年〇月〇日
〇〇簡易裁判所御中
原告 〇〇 〇〇
【当事者の表示】
〒〇―〇(送達場所)
住所
原告 氏名
電話 ××××-×××-×××
〒〇―〇
住所
被告 氏名
貸金請求事件
訴訟物の価格 30万円
貼用印紙額 金3000円
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金34万5000円及びうち30万円に対する令和〇年〇月〇日(注:返済日)から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払い金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第1項につき仮執行の宣言を求めます。
少額訴訟による審理及び裁判を求めます。
本年、御庁において少額訴訟による審理及び裁判を求めるのは〇回目です。
第2 請求の原因
第1 当事者(甲1、甲2)
1 被告は、〇(注:職業など)であり、〇と呼ばれる「〇〇」(注:所属先や勤務先、団体名など)の当事者であった。「〇〇」は、〇〇を行い、〇〇を目標とした〇〇であった。〇〇〇〇(注:以下、団体・グループ・サークルなどの説明)。
2 原告は、「〇〇」の参加者であった者である(注:原告の説明)。
第2 原告と被告の間の金銭消費貸借契約の締結
1 被告は、令和〇年〇月〇日、〇〇の〇〇に対し、〇〇を案内した(注:原因となった活動や行動などの説明)。〇〇は、参加者が、被告に対し、弁済額を5年後の令和〇年〇月〇日、利息年5パーセント(利息は毎年〇月〇日に支払い。)として金銭を貸し付けるというものであった(甲3、甲4)。
2 原告は、前記案内を受け、〇〇に参加することとし、被告に対し、令和〇年〇月〇日、30万円を貸し付けた(甲5。以下「本件金銭消費貸借契約」という)。
第3 被告の支払拒絶
1 被告は、原告に対し、令和〇年〇月〇日、令和〇年〇月〇日に、それぞれ1万5000円の利息を支払った(甲6)。
2 しかし、被告は、令和〇年以降の利息を支払わず、弁済期である令和〇年〇月〇日を経過しても元金を返済しない。
第4 結語
よって、原告は、被告に対し、本件金銭消費貸借契約に基づき、貸付金元金30万円、前記貸付金元金に対する年5パーセントの割合による約定利息金の未払額4万5000円、及び、前記貸付金元金に対する令和〇年〇月〇日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
証拠方法
別添の証拠説明書記載のとおり。
付属書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証の写し 各1通
以上
記載方法や提出先と注意点
提出先:原則として被告の住所地を管轄する簡易裁判所に訴状を提出します。ただし金銭請求(貸金請求、売掛金請求など)の場合は原告の住所地を管轄する簡易裁判所、また当事者間で合意がある場合には任意の簡易裁判所に訴状を提出することもできます。簡易裁判所ごとに提出する部署が異なるため、裁判所の公式サイトなどで確認が必要です。
必要部数:正本1通、副本(写し)1通(被告が複数の場合は人数分)
手数料:収入印紙(請求額によって異なる)と予納郵券(郵便切手)
不安なら簡易裁判所に相談
各地の簡易裁判所で、少額訴訟の訴状作成について、無料で相談に対応してくれます。まずは一度電話や窓口で問い合わせてみると安心です。
まとめ
少額訴訟は、手続きがシンプルで、個人でも実行しやすい制度です。この記事のテンプレートを活用して、まずは解決への一歩を踏み出してみましょう。トラブルに泣き寝入りせず、お金を取り戻す手段として、少額訴訟の訴状提出をぜひ検討してください。