少額訴訟は、1回の審理で判決が出る簡易でスピーディー、かつ低コストな裁判制度です。とはいえトラブルの解決手段として、少額訴訟がそれほど浸透しているとはいえません。そんな少額訴訟について「よくある質問」をQ&A形式でまとめました。
Q1:少額訴訟とは何ですか?
A:
少額訴訟は、60万円以下の請求を対象として、1回の審理でその日のうちに判決または和解が出る裁判です。当然ながら60万円以上の請求の場合には、少額訴訟を提訴することはできません。
少額訴訟のメリットは、複数回の審理がある通常訴訟と違って、時間・金銭面の負担を抑えながら、トラブルの解決が期待できることです。
少額訴訟は簡易裁判所で開かれます。また提出する書類も訴状や証拠ぐらいに限られているため、法律の専門的な知識がなくても、弁護士をつけない「本人訴訟」で十分に対応が可能です。市民に開かれた裁判制度だといえるでしょう。
Q2:どんなケースに少額訴訟が使えますか?
A:
少額訴訟は主に以下のような金銭トラブルの解決に活用されています。
- 貸したお金が返ってこない
- 未払いの給料や報酬
- 通販で商品が届かない
- 原状回復費用の過剰請求(賃貸物件の退去時など)
ただし先述したように、請求額が60万円を超える場合は少額訴訟を起こすことはできません。請求額が高額になる場合は、通常訴訟での解決を検討する必要もあります。ただ通常訴訟となると、審理も複数回に及ぶことや、提出する裁判書類も多いため、本人訴訟のハードルは上がることになります。
Q3:訴える相手が遠方に住んでいても大丈夫?
A:
少額訴訟は、被告の住所地を管轄する簡易裁判所で開かれます。この「住所地」とは、住民票上の住所である必要はなく、訴状が届く住所または勤務先であればかまいません。簡易裁判所の管轄については、裁判所の公式サイトで確認できます。
ただし、貸金請求や売掛代金に関するトラブルであれば、原告の住所地を管轄する裁判所で提訴可能です。また、原告と被告の同意がある場合は、任意に簡易裁判所を選ぶことができます。
Q4:訴える相手の住所がわからない場合は?
A:
少額訴訟は、被告の住所がわからないと提訴できません。被告の住所がわからない場合は、少額訴訟ではなく通常訴訟での解決を検討することになります。通常訴訟であれば「公示送達(裁判所に訴状が一定期間掲示されることで、訴状が相手に送達した=届いたとみなす制度)」の申し立てが可能です。
Q4:訴訟費用はどれくらいかかりますか?
A:
訴訟費用は比較的低コストといえます。主に以下の費用がかかります:
- 裁判所に納める収入印紙代(請求額により1,000~6,000円)
- 予納郵券(切手)代(6,000円程度、簡易裁判所により異なる)
たとえば、10万円の請求なら印紙代は1,000円、予納郵券代は6,000円前後です。ただし予納郵券代は簡易裁判所ごとに異なり、切手代の値上がりによって変動するため、提訴の前に確認が必要です。
予納郵券が余った分は原告に返還されますが、逆に足りなくなった場合は不足分を請求されることもあります。その場合は不足分の切手を、あらためて簡易裁判所に郵送する必要があります。
少額訴訟の収入印紙代
請求金額から収入印紙代を自動計算
東京簡易裁判所の予納郵券代(令和6年9月現在)
Q5:証拠はどれくらい必要ですか?
A:
少額訴訟の判決を左右するのが証拠です。少額訴訟では証拠の提出も1回限りで、訴状とともに簡易裁判所に提出します。以下のようなものが有効です:
- 振込明細
- メールやLINEのやり取り
- 契約書や領収書、注文書
証拠の提出方法に特別な決まりはありませんが、これらを印刷して時系列で整理して、簡易裁判所に提出します。一般的には「甲〇号証」というようにナンバリングしますが、これも決まりはありません。「証拠書類1」などとするだけでも十分です。
このうち証拠として最も重要になるのは、お金のやり取りや返済期日などを記した契約書や領収書、注文書などです。ただ個人間のお金のやり取りでは、書面を交わすことが多いとはいえません。その場合でも銀行の振込明細、メール・LINEのスクリーンショットなどが請求を裏付ける証拠になるため、保存しておくことが大切です。

Q6:相手が出廷しなかったらどうなる?
A:
被告が出廷しなかった場合は、原告勝訴の判決が出ることになります(欠席判決)。被告が原告の主張を認めた、反論しないものとみなされるためです。
Q7:判決後、相手が支払わなかったら?
A:
少額訴訟の判決後に相手が請求されたお金を支払わない場合、原告は「強制執行(差し押さえ)」の申し立てが可能です。判決を債務名義(法的根拠)として、相手の給与や銀行口座を差し押さえることができます。
ただし差し押さえには、相手の銀行口座または勤務先といった資産状況を、原告本人が事前に把握しておく必要があります。
Q8:60万円以上の請求はできないの?
A:
少額訴訟の請求額の上限は60万円です。これを超える請求額の場合は、少額訴訟での解決ではなく、通常訴訟を検討する必要があります。
Q9:和解は可能ですか?
A:
少額訴訟では裁判官から和解を勧められることがあります。原告と被告の合意があれば、その場で和解が成立し、効力のある和解調書が作成されます。少額訴訟の4割程度が和解で終わります。
まとめ
少額訴訟は、身近な金銭トラブルを早期に解決できる簡易な裁判制度です。少額訴訟は大半が原告の勝訴に終わるものの、原告は訴状や証拠を入念に整える必要があります。また判決後の回収に備えて、相手の資産状況を原告本人が把握しておくことも大切です。疑問点は、弁護士や司法書士への無料法律相談のほか、簡易裁判所でも直接確認することができます。